教材Webページコンテスト「ThinkQuest'99」の参加

神奈川大学附属中・高等学校

小林 道夫



1、ThinkQuestとは?

 ThinkQuestシンククエスト(主催:Advanced Network & Services, Inc.)は、1996年に米国で始まった教材Webページコンテストである。2〜3名の中・高校生が一つのチームを組み、半年〜1年かけて他の生徒が学習に利用できるWeb作品を英語で制作する。同じ学校の生徒でチームを組んで参加することもできるが、異なる国の生徒同士がチームを組み、協力しながら作品を制作する事が奨励されている。作品制作は全て生徒自身が行うが、各チームには1〜3名までコーチと呼ばれる大人(多くの場合教員)が制作上の指導役・相談役として付く。作品のテーマによって「科学・数学」、「芸術・文学」、「社会科学」、「スポーツ・保健」、「学際(複数の学問分野にまたがるもの)」のいずれかの部門に応募する。
 制作された作品は、その教育的な価値や品質のみならず、作品が完成するまでにいかに協力しあえたか、インターネットの特性を活かしたインタラクティブ性の見られる作品かどうか、完成した作品が世界の人々からどれだけ広くアクセスされているか、またその可能性があるかどうか、などが評価される。審査の結果、部門ごとに「プラチナ賞(Platinum)」「金賞(Gold)」「銀賞(Silver)」が決定するとともに、部門を越えて最も優秀な作品には「最優秀賞(Best of Contest)」が与えられ、生徒には25,000ドルの奨学金が授与される。
 96年、97年の作品はWebで公開されており、受賞作品も含めてどれも研究の質、サイトの構成、Webデザインとすべてにわたってレベルが高く、様々な学生Webページコンテストの中でも、最もレベルが高いものと思われる。年々作品のレベルがあがってきているとともに、コンテストへの参加者が増えている。このことからも世界の中高校生が競ってThinkQuestにチャレンジしていることが理解できる。

ThinkQuest Webページ(http://www.thinkquest.org/

2、ThinkQuestにチャレンジすること

 本校の情報教育においては、生徒自身がインターネットを道具として活用し、情報を集め、選択し、発信することによって、交流と共同研究の場として位置づけ、情報技術の修得や創造性の開発と個性の発揮を目指し6カ年カリキュラムを実施している。これまでの教育活動の中で、学習した内容を実際に生かすチャンス、発表する場というのがあまり見当たらないのが現状である。修学旅行文集、生徒会活動、クラブ活動、学園祭など、子供たちの活動や意見を紹介する場はあっても、日常の学習内容を自身でまとめ発表するということがない。このことから、授業ではコンピュータやインターネットの基本操作を学習したうえで、画像処理ソフトを使った作品制作、Webページ制作を行い、これまで生徒が学習した内容や情報を整理し、まとめ、プレゼンテーションするといった活動を中心に行うこととした。
 授業で制作したもの、または課外活動で制作した作品を公開し、友人や国内海外の人々に見てもらい評価されることは、作品を制作する上で大きなモチベーションとなり、目標となる。そして、ThinkQuestのようなコンテストに参加することは、自分の作品がどのように受け止められ、世界の子供たちは何を考えどんな作品を作るのかを自身の目で確認することができる。本校では、98年より中学生、高校生がThinkQuestにチャレンジしており、98年は中学生3チームが参加し、「コンピュータの歴史」「世界遺産」「友情」をテーマに作品を制作した。「コンピュータの歴史」は本校の男子生徒がアメリカの高校生とチームを組み、セミファイナルに残ることができた。そして、99年は高校生2人がそれぞれ海外の高校生とチームを編成し参加した。

3、生徒の参加

 「ThinkQuest '99 Internet Challenge 」は98年11月より参加募集を開始し、世界78カ国2,596チーム(6,567名)が参加し、最終的には744作品の提出があり、日本からも29チーム(65名)が参加した。Internet Society の管理のもと、8月下旬よりオンラインによる第1次審査が行われ、セミファイナリスト153チームが発表され、その中で本校生徒の2作品が選ばれた。

  「Discovering China: The Middle Kingdom」

 米国と南アフリカの高校生とチームを組んだ佐藤さん(高3女子)は、文化大革命を中心とした現代中国について研究した作品「Discovering China: The Middle Kingdom」を制作した。この作品は文化大革命を中心に、国家の成り立ち、事件、人物を丁寧に調査しまとめ、150ページ以上にも及ぶ内容がある。また、ビデオ映像をRealVideoで配信したり、様々な分野で活躍している人物、中華料理のレシピ、クイズ、掲示板など、見る人が内容を理解するとともに、楽しんで学習できるように工夫されている。テーマの絞り込みやページ構成はすべてメール、チャットで話し合われ、佐藤さんが英文テキストを書き、他の2人のメンバーがリサーチと集計、ページをデザインしてWebページを組み立てるという具合に作業を分担し制作した。

Discovering China : The Middle Kingdom
http://library.thinkquest.org/26469/

「The Bioethics」

 デンマークとスイスの高校生とチームを組んだ柴田君(高3男子)は、臓器移植問題などを中心に生命倫理について研究した作品「The Bioethics」を制作した。この作品は、 バイオエシックスを医療の場としての倫理観としてとらえず、人々の生活、生命に関わる全ての事象に対する倫理として位置付け、歴史、人間の権利、医療、臓器移植、クローン技術、政策など様々な視点から研究を行っている。RealVideoを使っての、研究者のインタビュー、TV Learning Sysytemを作り、学習者がより理解しやすいように制作してある。またこの作品は、英語、ドイツ語、日本語の3カ国語のバージョンを制作した。

The Bioethics
http://library.thinkquest.org/29322/

4、作品の制作過程

 今回参加した本校生徒は、ThinkQuestのサイト(http://www.thinkquest.org)にある「Team Maker」に登録し、メンバーを探した。「Team Maker」では、自己紹介をするとともに、自分は何が得意でどんなテーマで作品を制作したいか、そしてどんなメンバーを探しているかを記述し、メールでやり取りを行う中でチームを編成し、コーチを決めて正式な登録を行った。本校の2人はともに海外の高校生とチームを編成したため、コミュニケーションやミーティングはすべて英語でメールかICQチャットを利用した。
 実際の制作は、テーマ選び、研究の打ち合わせ、作業分担、調査、取材、Webの作り込みまで様々な作業があるが、これらの作業を2月からはじめて8月15日に完成して提出しなくてはならない。先に示したように、2,596チームが参加した中で744作品の提出しかなかったということに6ヶ月間意欲を持ち続けて作品を完成させることの難しさを物語っている。

5、ファイナリストの発表

 10月の下旬、第2次審査が行われ、最終審査に進むファイナリストが26チームに絞り込まれた。その結果、社会科学部門(Social Science)で佐藤さんのチーム「Discovering China: The Middle Kingdom」が選ばれた。この作品は9月に公開されてから60万件以上のアクセスがあり、「YahooUSA」のCool Siteや「CNN.com」の10月のCNNHeadlineNEWSでも紹介された。このような点も審査段階で評価の対象となる。最終審査と授賞式は、11月20日〜22日にロサンゼルスで行われた。

6、ロサンゼルスでの最終審査と授賞式

 ロサンゼルスのホテルに到着して受付けに行くと、ThinkQuestのスタッフが「Congratulations」といって満面の笑顔とともに握手で歓迎してくれた。26チーム総勢150名以上とスタッフが50名以上が世界中から集まり、4日間の日程で最終審査と授賞式が行われた。Discovering Chinaチームは生徒が日本、アメリカ、南アフリカ共和国、コーチが日本、アメリカ、インドと、まさに国際チームで、これまでメールとチャットでしか話したことがなく、この場で初めて対面した。

チームメンバーと感動の対面

 対面の感動もそこそこに翌日から始まる最終審査で面接が行われるため、各チームともメンバーとコーチで「The Generator」という会場でミーティングを始めた。Webの制作段階からそうであったが、このような共同研究で最も時間を必要とするのはコミュニケーションをはかることにある。メンバーが意見を出し合い共通認識を持つことが重要であった。その会場には大きなモニュメントとともに50台以上のコンピュータが設置されており、 各チームに1台ずつコンピュータが与えられ、そこで打ち合わせやスタッフや他のチームに説明をする場となっていた。

   夜はディナーとともにイベントが行われ、各国の生徒、コーチと交流を行った。それぞれ同じ目的で努力してきたメンバーが成果を讃えながら交流する様子は、まさに言葉の壁もなく笑顔と笑い声が会場を包んでいた。アメリカ、シンガポール、韓国、インド、ロシア、ブルガリアなど多くの生徒、コーチと交流でき、毎晩深夜まで続いた。ここで驚かされたのは、英語を第2外国語としている国の生徒達の英会話能力が優れていることであった。

The Generatorでミーティング

7、最終審査

 翌日から2日間にわたって各チームの最終審査である面接が行われた。部門によって面接会場が分かれており、各チーム1時間面接を受けた。Discovering Chinaチームの面接は、審査員3人とチームの生徒3人で以下の内容で行われた。
 @自己紹介
 A生徒それぞれがどのようなコンピュータ環境で作業を行ったか
 B質問事項
  ・どのようにしてチームを編成したか
  ・テーマに中国を選んだ理由は
  ・チーム内での作業分担はどのように行ったか
  ・参考資料、調査は何をどのように行ったか
  ・Webサイトはどのように制作したか
  ・このサイトでほこりに思える部分はどこか
  ・著作権はどうように許可を得たか
 Cプレゼンテーション(3台のコンピュータを使って生徒それぞれが審査員に説明する)
  ・このサイトを制作する段階で見やすさ、ナビゲーションはどのように工夫したか
  ・Real Video はどのように編集したか

8、授賞式

 授賞式当日の午後リハーサルが行われ、会場には大きなスクリーンとセットが準備されており、これから行われるセレモニーの説明が行われた。午後4時から授賞式が始まり、ThinkQuestの創設者であるアル・ワイス氏から挨拶のあと、各部門毎にプレンゼンテーターから、銀賞(Silver)、金賞(Gold)、プラチナ賞(Platinum)の順で各部門の審査結果が発表された。

授賞式(Award Ceremony)

 その結果、「Discovering China: The Middle Kingdom」は銀賞を受賞した。参加登録をしてから10ヶ月間、様々な努力を重ね完成させた作品が、世界の人々から評価され、このような形で受賞できたことは、まさに感動の瞬間であった。
 この模様はRealVideoでインターネットでライブ中継されるとともにCNNで全米に放送された。

銀賞(Silver)を受賞した佐藤さん Discovering Chinaチームメンバーとコーチ

8、終わりに

 佐藤さんはもともと英語に興味を持っており、成績も上位である。しかし、コンピュータ、インターネットに関する知識、技術は決して豊富な方ではない。事実、ThinkQuestに参加するまでは、家にコンピュータはなくメールもほとんど使ったことはなかったが、今回メールをコミュニケーション手段とし、Webサイトを研究活動の成果としてまとめるツールとして見事に使いこなした。ThinkQuestの参加は、これからの情報教育のあり方、授業で何を伝えていくべきなのか、その答えの重要なヒントを与えてくれた。
 インターネットは、問題解決に大きく貢献すると同時に様々な問題を抱えながら進化しているものであり、 決して万能とは言えない。しかし、出会えることもなかった人たちとのコミュニケーションを作り上げ、そして協力しながらWebサイトという形で作品を提供することができるすばらしいツールである。今回集まったファイナリストの生徒、コーチ、スタッフとの出合いは、すばらしいものであった。ThinkQuestに参加して得たものの多くは、これらの人たち、そして作品を制作する段階で出会った書籍、インタビューした人々、メールでやりとりしてきた人たちとの出会いであり交流であったと感じる。そして、世界中の子どもたちに教材となるWebページを作るという目的で、出会い、悩み、喜び、涙しながらこれだけのすばらしい作品を作り上げることができたことは、自己実現であると同時に自分の活動が社会に貢献できという達成感を得ることができた。
 最後に佐藤さんの受賞の感想を紹介する。
「審査の際に、英語力の不足のために伝えたいことを十分に伝えることができなかったことが悔しいです。でも、多くの人が私のサイトに関心を示してくれたこと、私の片言の英語を熱心に耳を傾けて聞こうとしてくれたことがとてもうれしかったです。また、世界中に多くの友達ができたことはかけがいのない宝物です。」

出発の朝、ブルガリアのチームと佐藤さん


〜神奈川大学附属中・高等学校 研究紀要 第14号(2000年7月3日発行)〜