全日本Web教材開発コンテストThinkQuest@JAPAN の活動と成果
〜創造的・自律的次世代人材育成を目指す〜

【「全日本教育工学研究協議会 全国大会 研究論文集」(全日本教育工学研究協議会、2004年11月 掲載】

特定非営利活動法人学校インターネット教育推進協会 事務局
望月 なを子



1.ThinkQuest とは

  ThinkQuest は、1995年米国でスタートしたWeb教材開発コンテストである。米国内でのパイロットプロジェクトを経て、1996年、国際的な教育プログラムへと発展し、これまでに、125か国10万人以上の中高生および教職員が参加を行ってきた。
 日本では、1998年「ThinkQuest 日本プログラム推進委員会」(現在「特定非営利活動法人学校インターネット教育推進協会:JAPIAS」へ移行)が設立され、国際コンテストへの参加者支援が開始されるとともに、日本語によるコンテストThinkQuest@JAPAN がスタート。今年で第7回目を迎える。


2. ThinkQuest@JAPAN とは

 ThinkQuest@JAPAN は「中学生の部」「高校生の部」の2部門があり、年1回開催される。応募作品のテーマは自由であるが、「科学・数学」「芸術・文学」「社会科学」「スポーツ・保健」「学際 (複数の学問分野にまたがるもの)」5つのいずれかのカテゴリに分類されるWeb 教材で、その年のThinkQuest@JAPAN の制作期間中に制作された未発表作品でなければならない。また過去の応募作品を条件付きで再応募することも可能だ。
 参加者はまずチームを結成し、作品概要を決めて申込を行う。結成のためのマッチングデーターベースを利用して、相手を探すこともできる。受付が受理されると、作品の開発・テスト・公開を行うためのサーバ領域が各チームに与えられ、チームはこの領域を使って、すぐに作品制作を開始することができる。作品は、提出締切までにサーバにアップロードするとともに、応募作品提出書類を入力フォーム形式にて提出しなければならない。
 提出された作品は、その作品の教育的な価値のみならず、制作過程においてメンバーがいかに協力し合えたか、作品のPRを行い、利用者を増やす活動がいかにできたか、またその教材を使う側からも情報を送りこめるような、双方向性のあるWeb ページに工夫されているかどうか、などが審査される。
 審査は3段階で行われ、セミファイナリストチーム(各部門上位15チーム程度)については、審査員のアドバイスをもとに、作品にさらに改良を加えて最終審査を受ける仕組みになっており、これは他のコンテストにみない特徴でもある。またファイナリストは、自分達の作品についてのプレゼンテーションを行い、舞台上での表現力も審査対象として評価され、最終的な順位が決定される。最後に、優秀な作品は教材ライブラリーとして広く公開される。
 

3.ThinkQuest の特徴

・教材開発であることの価値
 ThinkQuest の作品は、学校紹介やクラブ活動の紹介、調べ学習の発表といった内容のものとは違い、「他の生徒の役に立つ教材」でなければならない。自分たちの興味あることを、他の生徒に知ってもらう(教える)という視点をもつことで、題材への探求心を深め、より意欲的に知る(勉強する)という仕かけが特徴であり、また教育プログラムとしての狙いでもある。
 生徒たちには、相手(利用者)を意識し、どのようなものであれば利用してもらえるか、またどう伝えれば理解しやすいかなどを、考えながら制作する力が求められる。また出来上がった応募作品がインターネット上に公開され、実際に顔の知らない他の人に利用されていくという点において、生徒は自分たちが発信した情報に責任を持っていかねばならない。これは学校の中だけでは得られない体験であり、概念のみならず実際にそれを体験できるという点において、価値が高いと言えるだろう。
・協同作業とコラボレーション
 ThinkQuest の制作活動は、異なる能力やスキルを持った 2〜3人の生徒がチームを組み、それぞれの知識や知恵をお互いに出し合い、補完し合いながら協同で進められるものである。これは、「個」が持つ力を最大限に活かしながら「全体」をネットワークし、一つの目標を達成するということであり、これからのデジタル社会において求められる作業スタイルと言える。
 またインターネットをいかに活用するかという観点から、離れたメンバーがインターネットを通じて協同作業をした場合の方が、評価が高くなるのも特徴である。
 日本では、学校・地域・国を越えて結成されたチームはまだまだ少ない。特に授業で取り組む場合は、指導者にとっては物理的にも人的にも大きなエネルギー要するものと想像する。しかしながら、ネットワーク環境というハード面での整備も、2005年を目処に今後ますます整っていくものと思われる。また生徒においては、違う国の生徒との交流に興味を持つ者も少なくないのではないだろうか。 
 前回開催されたThinkQuest@JAPAN2003 の参加者の中に、「英語を使って他の国の人と話してみたい」という思いがきっかけとなり、米国の生徒とメンバーを組み、見事プラチナ賞を受賞した中学生がいた。彼女たちの作品の掲示板では、コンテストが終わった今も英語によるやりとりが続いている。インターネットを十分活用し、生徒の未知な出会いによって得られる素晴らしい体験が今後増えていくことを、期待していきたい。
・コーチの役割と生徒の実践力
 ThinkQuest は、先生から知識を学ぶ「講義型」の教育に対し、生徒が自ら考え、学んでいく「実践型」のプログラムである。教室で学んだ知識を生かし、自ら選んだテーマについて調べ、まとめ、解決していく中で、生徒が成長することをねらいとしている。よってコーチは、生徒の学習意欲を喚起し生徒から生徒がもっているものをいかに引き出すかが重要な役割となる。
 これまで講義型の授業が多くを占めてきた中で、「総合的な学習の時間」や高校教科「情報」が設けられ、「問題解決能力」や「情報活用の実践力」などが重視され実践型のカリキュラムが行われるようになってきていることと思う。
 ある学校では、情報の授業でWeb に関する学習を行い、その中から意欲のある生徒が自主的にThinkQuest に参加するというスタイルをとっている。コーチから聞いた話を紹介したい。「ThinkQuest に興味をもつ子どもたちというのは、どちらかというとコンピュータに精通していなくて、調べたり、知的好奇心のある子が多く、新しいもの好きな子、何かやってみたい、という子たちです。ThinkQuest に取り組みはじめると、情報を集めたり、テーマを考えたり、組み立てたり、わいわい打ち合わせる中で、デザインという考え方が必要だ、構成図を考えなきゃいけない、スキルが必要、掲示版も作りたい、CGI 、画像処理もしなければならない、、、と進めていくうちに直面する問題を乗り越えていかねばならない。しかしそうやって試行錯誤をしていく中で、知らないうちに、子どもたちは、どんどん伸びていく。申込をしたときと、最後に作品を提出したときの、子どもたちの顔や考え方、スキル的なものは随分変わっていて、本当にそれは顕著です。」
 この言葉の中にもあるように、生徒が自ら試行錯誤しながら体験する一連の活動(テーマの設定、チームの結成、役割分担、協力、知識・技術・情報の共有、作品のPR、)は、生徒の成長を促すものであり、また実社会においても必ず役に立つものである。ThinkQuest はプロジェクトチームによるモノづくりのトレーニングであり、また次世代に必要な実践力を養う人材育成プログラムであるとも言えるだろう。
・インターネットスタイルの作品
 ThinkQuest は、作品にアクセスした人が内容を閲覧するだけではなく「参加」「利用」できるものであることを求めている。インターネットの特徴を生かし、参加を通じて制作者と利用者がデータ・アイディア・経験を双方向に共有することができ、その作品がより充実していくことを目指している。
 当初、ThinkQuest@JAPAN の応募作品には、教科書の内容をきれいに整頓しなおしたようなものや、自己表現に留まる内容のものが多かった。しかしここ2年ぐらいの間に、優秀作品の中には、インターネットを駆使した様々な工夫にみちた作品が増えてきた。オンライン会議を定期的に計画し、利用者によるディベートを展開している作品、題材についての理解度テストが設けられ、利用者の中での自分のランク付が確認できる作品、アンケートを募りその結果をフィードバックしている作品などがその例である。考える力のみならず、技術力の向上も大きく関与していると思われるが、これらの作品が、コンテスト終了後も制作者によって更新・管理されており、作品が高められ成長していくという点において、ThinkQuest は制作者と利用者による、インターネット上の教材リソースを作り上げていく活動であるとも言える。

4.ThinkQuest@JAPAN のファイナリストたち

 2004年6月に授賞式を終えたThinkQuest@JAPAN2003 には、中学生の部に679人、高校生の部には760人、計1,439人(548チーム)の応募があった。(図1)参加者は、2月中旬の作品提出を経て、3段階にわたる審査を受け、19チームがファイナリストに決定。ファイナリストプレゼンテーションを行い、その結果、プラチナ賞、金賞、銀賞、が決定されるとともに、最優秀賞/文部科学大臣奨励賞ほか2つの大臣賞、4つの特別賞を受けた。
 授業で取り組み、学校を通して参加する生徒たちが多くを占める中で、今回最優秀賞に輝いた作品「Glory Hole」は、中学校時代の同級生3名の自主的な参加によるものであった。作品は、日常の身近な科学を高校生の視点で考え、理科嫌いな子供に理科を楽しんでもらおうと制作したもので、審査員からは「本などで調べたことをWeb 化したのではなく、自分たちの興味あることを手足を動かして知識にしていった点が素晴らしく、ThinkQuest にふさわしい作品である、また科学をとことん楽しんでいる様子が画面を突き破ってくる」と、高い評価を受けた。実験を根拠に科学を学べる点、メールマガジンの発行や朝顔の種を配布する企画など、小中高校生のみならず、科学好きな利用者にも人気サイトとして成長している。チームリーダーの太田くんは、授賞式後のインタビューで「Webを作るという一つの目標に向かって、友達といっしょに作れたのが楽しかった」と答えていた。何よりも、自分たちの視点で楽しんで取り組んだことがグランプリにつながったのではないかと思う。
 また、卒業課題としてThinkQuest に取り組んでいる学校もあった。 この学校では、2000年度から全校をあげて参加に取り組み、毎年ファイナリストを生み出している。当初、学外の活動に参加することには後ろ向きだったということだったが、実績を積むにつれ前向きに変化し、生徒のみならず教職員の多くがコーチとして参加している。なお同校では、進路を考える上でのきっかけという意味でもThinkQuest を位置づけており、参加者は、自分たちが将来進むべき興味あることを考え、テーマを設定している。今回金賞を受賞した著作権について学べる作品「CopyRight Web」のメンバーは、3名ともに法学部を目指しており、最も身近な法律である著作権を勉強したいと思った、とテーマ選択の動機について語っていた。
 また別のいくつか学校では、ThinkQuest の成果により、AO入試で大学に入学した生徒を出しており、様々な形で生徒の進学や将来を考えるきっかけにもなってきていることがわかる。
 生徒たちは、通常の学業に加え、クラブ活動、受験勉強、学校行事などで非常に忙しい毎日を送っていると思われる。そのような中でThinkQuest に参加し、作品を作り上げていくことは大きなエネルギーを要するものであろう。しかしながらThinkQuest の参加を通じて、この大きな価値を知り体験することは、一人ひとりが次世代を担う力を身につけることにつながっていると確信する。
 最後に、ThinkQuest の過去の参加者(現在社会人)の体験エッセイからその一部を紹介したい。「周りでは受験勉強が忙しくなりつつある中…インターネットで同年代向けの教材を作っている…と。今、教えられるべき立場の人間が教える立場になっていた様は、傍から見れば、心配で、ある意味滑稽だったかもしれません。しかし、ThinkQuest の仕組みを見れば分かるように、『チームで参加し』、『取り組むべきテーマを決めて』、『目標のクオリティのものを時間までに発表する』という一連の仕組みは、殆どのことが勉強にも、生活にも、仕事にも通底するものなのです。〜中略〜ThinkQuest 参加時のチームの計画資料やホームページ資料を見返して読んでみると、文章はヘタクソですし、稚拙な事が多く、恥ずかしいです。とは言っても『彼が』具体的に進めていた事や活動の方向性を見ると、5年後の自分でも大きくは異なっていなく、きっと今後も必要で重要な通底する「考え方のエッセンス」を学ぶことができたのだろうと思います。」(ThinkQuest コミュニティhttp://thinkquest.jp/community/1-3.html)
 以上、ThinkQuest の取り組みとその成果の一部を紹介したが、今後もより多くの生徒と先生方が、このプログラムに参加されることを願い、支援に務めていきたいと思う。
以上