国際的な共同学習をどう進めるか

【『教職研修5月増刊号(「総合的学習」指導の手引き No.1)』
―「総合的学習の時間」で基礎的素養を育む―
(教育開発研究所、1999年5月)掲載】

グローバルコモンズKKプロジェクトコーディネーター
小川 布志香  


  国際的な共同学習を行う一つの手段として、最近身近になったインターネットを利用した既存のプロジェクトに参加する方法がある。ここでは、海外の児童・生徒と自由なWebページづくりに取り組む「AT&Tバーチャルクラスルーム・コンテスト」と、中学・高校生自身がWeb形式の教材づくりに挑戦する「ThinkQuest/ThinkQuest@JAPAN」について紹介する。


AT&Tバーチャルクラスルーム・コンテスト

(1) AT&Tバーチャルクラスルーム・コンテストの概要
 AT&Tバーチャルクラスルーム・コンテスト(以下コンテストという)は異なる国の3校が1組のチームとなり、約5ヶ月間(例年10月〜翌年2月頃まで)わたって共同でWebページづくりに取り組み、その成果を競い合うものである・制作する作品のテーマは自由であるが、英語によるWebページが審査の対象となる。
 参加単位は学級単位(児童・生徒20〜40名)が基本であるが、人数の条件を満たせばクラブ活動等でももちろんかまわない。また同じ学校から複数の学級が参加することも可能である。
 チームのWeb作品を置く場所、つまりWWW/FTPサーバの領域はコンテスト事務局が提供し、同じ領域をチームで共有して作業を進めていく。
 制作されたWeb作品は、内容、表現力、そして活動期間中いかに児童・生徒が協力し合ったかについて審査が行われる。その結果、小学校と中・高等学校の二つの部門別に、グランプリ、その他各賞が決定する。また、最後に開かれる表彰式では、グランプリに選ばれたチームの指導教員と生徒代表が招待され、交流会も開かれている。

(2) コンテストのねらい
 これまでの教室型学習では、個々の事実や問題点を学ぶことはできたとしても、問題解決のために国際的な共同作業をどのように行ったらよいか、実体験できる機会を提供するものではなかった。しかし、インターネットを利用することにより、教室にいながら海外の児童・生徒と一緒に問題を取り組み、意見を交わすことが可能となるのである。このコンテストの大きなねらいは、言葉や考え方も異なる児童・生徒によるチームによってWeb作品を仕上げるという目標を達成する過程において、国際的な共同作業を体験する機会を提供することにある。

(3) 学校ごとの取り組み方とテーマの事例
 過去3回のコンテスト参加学級の総数は695学級で、そのなかには日本の小学校から28学級、中学校から52学級の参加があった。日本の小・中学校の参加形態を見ると、教科授業としての取り組みが小学校で約7割、中学校では約5割程度と比較的多かった。その他は、学級活動やクラブ活動等の特別活動、あるいは中学校であれば選択教科の授業で取り組む例もあった。個々の教科名をあげると、小学校であれば、国語、社会、理科の教科で多く取り組まれており、その他学校独自に設置されている「総合学習」「環境教育」といった新しい教科のなかでの活動も行われている。一方中学校の場合、このコンテストそのものが英語によるコミュニケーションが必須となるため、英語科での取り組みが一番多く見られたが、その他、数学、音楽、技術といった教科でも活動が行われている。
 実際にはどのような内容を作品に盛り込むかについては、児童・生徒自身が決めるが、大まかなテーマは、参加形態(教科授業、特別活動等)にも依存するため、活動を開始する前に教員があらかじめ相手校の教員と連絡をとって決定する。これまでのテーマを見ると、コンテストを通じて知り合った児童・生徒は、お互いの自己紹介や日常生活について伝え合うことから活動を始めるため、3カ国の文化や伝統、日常生活などの紹介や比較をテーマにすることが多いようだ。
 はこれまでに小学校、中学校で選択されたテーマの一例である。

小学校 中学校
参加形態 教科名 Web作品のテーマ 参加形態 教科名 Web作品のテーマ
授業 国語 物語創作 授業 技術 書道、ひらがなの書き方
授業 社会 貿易、暮らし、自然、政治 学級活動 英語 未来について考える
授業 総合 文化保存の取り組みについて 学級活動 数学 自然破壊を考える物語制作
授業 総合 日常生活の比較(学校、食べ物、お祭り等) クラブ活動
通信技術とコミュニケーション
クラブ活動
3カ国語の文化を融合させた物語制作
学級活動
クラブ活動

文化の比較(遊び、食べ物、音楽、スポーツ、など) 課外活動
3カ国語の文化を混在させた未来の国作り
課外活動
月の科学と文学
クラブ活動
環境をテーマにした絵本作り 課外活動
環境問題研究


(4) 活動を継続させるためのポイント
 コンテスト期間は例年10月から翌年の2月頃までであるが、この期間、それぞれの学校において試験や学校行事、あるいは冬季休業があるため、実質的な活動期間は3ヶ月程度と考えたほうがよい。また、3校間のコミュニケーションが基本的に電子メールや電子掲示板を利用するため、時差を考えると、1日返事を書かない状態でも、海外にいる相手にとってはそれ以上に長く返事が戻ってこないと感じられる場合もあることに留意する必要がある。
 言葉や考え方の異なる児童・生徒との共同作業を指導する教員の役割は重要であり、児童・生徒の興味を維持させながら活動を継続させていくためには、以下のポイントは押さえておくとよいだろう。

1日1回必ずメッセージを確認すること(電子メールまたは電子掲示板)。
メッセージを受け取ったらその日のうちに、または2日以内の返信をするように心がける。無理であれば、今どのような状況かを相手に伝え、1週間以上のブランクをつくらないようにすること。
人数の多い学級単位で参加する場合、相手校と協力して 3カ国混成の班分けを行うとよい。
教員同士の密接なコミュニケーションは大切である。

 以上のようなことは、このコンテストに限らず、海外との交流を行ううえで共通に気をつけておくべき点とも言えるだろう。

(5) 英語使用の問題点
 このコンテストでは英語を共通語としてコミュニケーションを図り、Webサイトをつくらなければならないため、日本の参加者にとって言葉の壁は大きい。教員がすべてのメッセージを翻訳することにもなりかねず、その作業量は膨大になるため、地域や保護者のボランティアを募ったり、ALT(Assistant Language Teacher)や英語科の教員とチームを組みながら活動を進める工夫も大切である。また、翻訳ソフトを使うケースも多く見られるが、過去に、翻訳ソフトの誤訳によって逆にチーム内のコミュニケーションがうまくいかなかった例もある。そのため、単語を単純にあてはめただけの誤訳もありえることを念頭に置いて利用する必要もある。
 小学校の場合は、英語が正規の教科になっていないので、工夫の必要がある。一例を紹介すると、基本的な構文(たとえば“I like A.”)を児童に教え、Aに当たる部分は児童に描かせた絵を使いながら自己紹介をする工夫が見られた。

(6) 参加者の体験談
 以下、参加者からの感想をごく一部紹介する。子どもばかりではなく、教員もこのコンテストから学んでいることがわかる。

文化や話す言葉が違っても、考え方が同じで共通点も多いことを学んだ。(生徒)
外国や外国語への興味をもつようになった。(生徒)
生徒達は、外国の文化や考え方を理解すると共に、相手にしっかりと自分の考えや意思を伝えることができるようになった。(教員)
この活動を通じて「人と協力すること」がどのようなことかが、参加した生徒にも、教師にも分かったように思える。(教員)


ThinkQuest と ThinkQuest@JAPAN

(1) ThinkQuest(シンククエスト)の概要
 ThinkQuestは1996年に米国でスタートした英語による教材Webページコンテストである(主催:Advanced Network & Services, Inc. )。参加者の対象は世界中の12〜19歳の生徒で、2〜3名の生徒と生徒を指導する1〜3名の「コーチ」が一つのチームを組み、半年〜1年(ThinkQuestの募集締切は例年2月末頃、作品提出締切が8月末頃)かけてWebページを制作する。テーマは自由だが、「科学・数学」「芸術・文学」「社会科学」「スポーツ・保健」「学際(複数の学問分野にまたがるもの)」のいずれかに属するもので他の生徒の教材となるものが条件である。チームメンバーは同じ国同士で組んでもよいが、異なる国同士で組むことが奨励され、後述するように審査で加味される。
 制作された作品は
  [1]作品の教育的な価値、[2]内容の正確性と技術的な質、[3]作品が完成するまでいかに協力し会えたか、[4]できあがった作品が世界の人々からどれだけ広くアクセスされているか、また利用される見込みがあるかどうか、[5]利用する側からも情報を追加でき、内容をより充実させられるようなインタラクティブ性の高いWebページに工夫されているか、[6]メンバーの文化的・技術的な違い、について審査が審査が行われる。審査の結果、部門ごとに順位をつけるほか、部門を越えて最も優秀な作品には「最優秀賞」が贈られる。

(2) ThinkQuest@JAPAN(シンククエスト・アット・ジャパン)の概要
 さて、ThinkQuestの対象は英語による Web 作品であるため、日本の中学・高校生にとっては言語の壁が大きいと思われる。そこでつくられたのが日本語によるWeb作品を対象にしたThinkQuest@JAPANである(主催:ThinkQuest日本プログラム推進委員会)。
 さらにThinkQuestと大きく異なる点は、参加者の対象を中学・高校生に限らず、大学生や社会人にも広げた点である。これは「コーチ」と呼ばれる生徒を指導する大人、とくに教員や将来教員をめざす大学生にも同じプロセスを実体験してもらうことが大切であるとの考えに立つものである。
 また、プログラム期間についてもThinkQuestとは約半年ずれており、ThinkQuest@JAPAN'99では、募集締切が1999年9月末、作品提出締切が2000年1月末となっている。

(3) ThinkQuest/ThinkQuest@JAPANのねらい
 ThinkQuestでは、自らの興味のある分野について深く考えを探求する機会を提供することと、その成果をインターネット上の教育リソースとして世界中で共有できるようにすることの二つが大きなねらいである。これまでに提出されて世界中に公開されているThinkQuestの作品は1,000を越え、教材として幅広く利用されている。
 一方、ThinkQuest@JAPANでは、日本の中学・高校生、さらには教員にも同様の機会を提供することが大きなねらいではあるが、また、日本語による教育リソースを充実させることもねらいの一つにあげられる。


両プログラムを通じて学べること

 いずれのプログラムにおいても「情報活用能力」「課題選択、意志決定能力」「表現力、思考力、想像力」「コミュニケーション能力」といった個人の能力の向上を図ることができるであろう。とくに、AT&Tバーチャルクラスルーム・コンテストでは英語が必須条件であるため「英語力」、また3校が必ず異なる国というチーム構成から「自国・他国文化の理解と尊重」といった資質を自然に培うこともできると考える。
 これらの能力や資質は、これからの国際社会において必要なものと多く重なり合い、いずれのプログラムへの参加も従来の知識習得型学習とは異なる形で、児童・生徒の「自ら学び、自ら考える力」を育成するための有効な手だてとなるのではと考えられる。

 インターネットを使った学習はさまざまな試行がされているなかで、総合的な学習の時間に、国際的な共同学習の教材として両プログラムの活用を期待する。



≪問い合わせ先≫
(1) AT&Tバーチャルクラスルーム事務局
 〒169-0072 東京都新宿区大久保2-4-15 サンライズ新宿ビル7F
 Tel:03-3204-8104, Fax:03-3202-2414
 E-mail:secretariat@vc.attjens.co.jp
 URL:http://www.vc.attjens.co.jp/
※ AT&Tバーチャルクラスルームは、1999年度をもって終了。

(2) ThinkQuest日本プログラム事務局
 〒169-0072 東京都新宿区大久保2-4-15 サンライズ新宿ビル7F
 Tel:03-3204-8104, Fax:03-3202-2414
 E-mail:sec@thinkquest.gr.jp
 URL:http://www.thinkquest.gr.jp/
 ※ AT&Tバーチャルクラスルームは、1999年度をもって終了。