21世紀の人材を育てるインターネット時代の学習スタイル
 〜ThinkQuest(シンククエスト)の挑戦〜

【「情報通信学会誌 第60号」1999年5月、pp.39-48 掲載】

ThinkQuest 日本プログラム事務局
事務局長 坪 俊宏



1. はじめに

 日本では1995年に始まった「100校プロジェクト」を一つの契機として学校のインターネット接続が本格化してきた。また、1997年11月には町村文部大臣(当時)より「2003年度までに全国すべての小中高校をインターネットで接続する」という方針が提示された。この計画は、その後、2年前倒しとなり、現在、2001年度(平成13年度)までに全国すべての小中高校(公立)をインターネット接続するための環境整備が進められている。このような動きは、他の先進各国でも見られ、米国、フランス、ドイツは2000年までに、また、イギリスは2002年までにすべての学校をインターネットに接続する計画を立てている(米国の場合は、2000年までにすべての「教室」をインターネットに接続するとしている)。

 国の施策による学校の情報化は、十数年前よりパソコン教室の整備という形で進められてきており、器の整備という観点からは、今回のインターネット接続は、その次のステップとも言える。学校のパソコン導入に当たって課題とされた「いかに良いソフトウェアを用意するか」という問いは、インターネット導入に当たっても指摘されるところである。また、インターネットを一種のハードウェアと考えた場合、それに対応するソフトウェアとはいったい何なのか、という問いに対する答えも今後明確にしていかなければならないだろう。

 ここ数年、世界中の学校をインターネットで結んだ教育プログラムが広がっている。その内容は、電子メールを使った異文化交流であったり、世界規模の環境調査であったり、Webページの制作を競うコンテストであったりと多様である。インターネットは、社会に様々な新しい価値をもたらしているが、中でも大きいのは「世界中が常時つながっているという状況」を人類にもたらしたことではないだろうか。今動いている教育プログラムのほとんどは、「世界中の学校(教室)が常時つながっているという状況」を活かしたものである。そこで必要とされるソフトウェアは、いわゆるコンピュータ・ソフトウェアではなく、どちらかというと、その状況を活かしきることを熟慮したレッスンプラン(カリキュラム)と言った方が良いであろう。そのような観点から考えると、インターネットはまさに「地球規模の新しい教室」であり、来るべきグローバルなデジタル情報社会を担う人材を育成する場であると言える。

 様々な教育プログラムがある中で、インターネットの特性を十分考慮に入れ、かつ、全世界規模で展開しているのが「ThinkQuest(シンククエスト)」である。本稿では、このThinkQuestに焦点をあて、それが学校教育にもたらす意義、また、日本にもたらす意義について触れてみたい。


2.ThinkQuestとは

 ThinkQuestは、1996年に米国で始まった、12〜19才の中学生・高校生を対象とした教材Webページ制作コンテストである。2〜3人の生徒がチームを組み、一つのトピックに基づいて半年から1年かけて Webページを制作する。応募部門は、「科学・数学」「芸術・文学」「社会科学」「スポーツ・保健」「学際(複数の学問分野にまたがるもの)」の5つ。部門の選択もトピックの選択も自由であるが、出来上がった Webページは、世界中の生徒が利用できる教材であることが条件となる。ただし「教材」といっても、いわゆる学校の科目にとらわれたものではない。例えば、過去に最優秀賞をとった作品を見ると、96年度は「 EDU STOCK:Economics and Investment: A Stock Market Simulation(経済と投資:株式市場シミュレーション)」(http://library.advanced.org/3088/)、97年度は「Where Earth Meets Sky: The Himalayas(地球が空に触れる場所:ヒマラヤ山脈)」(http://library.advanced.org/10131/)、そして、98年度は「The Soundry(音の科学館)」(http://library.advanced.org/19537/)というものであった。なお、米国で始まった国際コンテストということもあり、作品は英語で作る必要がある(複数言語が使われている場合は、多くの人から使われる可能性があるという点において評価されるが、内容に関する審査は英語ページが対象となる)。

 チームを構成するメンバーは、同じ学校・クラスの生徒同士でもかまわないし、全く異なる国の学校の生徒同士でもかまわない。最終的な審査に当たっては、インターネットを使ったコラボレーションという観点から、異なる国の生徒同士がチームを組んだ方が高得点を得られるようになっている。ThinkQuestのWebサイト(http://www.thinkquest.org/)には、「Meeting Place(参加者の出会いの場)」というコーナーがあり、チームメーカー・データベース、メーリングリスト、Hypernews(電子会議室)、チャット、そして、過去のファイナリストに対する質問のコーナーが用意されており、知らない者同士がチームを組みやすい状況を作っている。チームメーカー・データベースは、文字通りチーム作りをするためのデータベースであるが、ここでは自分自身を登録したり、自分のチームが必要としている技能を持ったチームメンバーを探すことができるようになっている。なお、ThinkQuestにおける「チーム」の定義は、「2〜3名の生徒」+「1〜3名のコーチ」+「生徒の学校」となっている。作品を作るのはもちろん生徒であるが、彼らを指導するコーチ、そして、各種の設備を提供する学校もチームの一部と考えているのである。

 ThinkQuestとは、考えること(Think)の探求(Quest)である。チームメンバーは、自分達が選んだトピックについて、多くの時間をかけて情報収集し、それらを分析し、そして、教材として仕上げていく。従来の教育が、教室の中で先生に「教えられる」ものであるのに対して、ThinkQuestでは生徒が「考えること」が中心となる。先生が生徒に対して知識を「プッシュ(押しつける)」するのではなく、生徒自身がもっているものを先生がいかに「プル(引き出す)」するかということが重要なのである。ThinkQuestではこのような役割を「コーチ」が担うことになっている。コーチは、先生がなる場合もあれば、参加生徒の親がなる場合もある。また、インターネットは本来インタラクティブで参加型のメディアであり、コラボレーションのための有効なツールであるが、ThinkQuestでは、その特性を活かした「インターネットスタイルの学習(Internet Style Learning)」を促進している。

 作品が完成したら、提出するということになるが、時間的に余裕のあるチームは、提出締切日までの間、マーケティング活動を行う。審査項目の中に「作品の利用度」という項目があり、教材として利用されたものはそれだけ評価が高くなるからである。具体的には、様々なサーチエンジンに登録したり、友人にメールで伝えたりするなどして、できるだけ多くのユーザーにアクセスしてもらうようにするのである。例えば、前出の97年度最優秀賞受賞作品「Where Earth Meets Sky: The Himalayas(地球が空に触れる場所:ヒマラヤ山脈)」などは、Yahoo Pick of the Weekなどにも選ばれ、マーケティング活動も十分に行われていたことが伺える。

 提出された作品は、オンラインによる第1次審査と第2次審査にかけられ、この過程でセミファイナリストが選ばれ、さらにその中からファイナリスト30数チームが選ばれる。これらファイナリストは、授賞式が開催される場所(96年度、97年度は米国ワシントンDC、98年度は米国ロサンゼルス)に招待され、そこで面談による最終審査を受ける。(審査は、インターネットソサエティに委託されている。)最終審査の結果、5つの各部門毎に第1位から第5位が決定され(99年度からは、第1位から第5位というランキングは止め、「プラチナ賞」「金賞」「銀賞」をそれぞれ1〜3チームに対して授与することになっている)、さらに部門を越えて最も優秀な作品1つに対して、「最優秀賞」が授与される。また、特別賞として「コラボレーション賞」「Java賞」「デザイン賞」が用意されている。さらに、一つ他では見られない賞として「教育リソース宝石賞(Gem Award)」というものが用意されているが、これは、過去のThinkQuestのコンテストにおいて一切の受賞をしなかった作品の中で、その後教材として高い評価を受け、世界中の人々から最も多く利用された作品に対して与えられる賞である。これらの受賞者に対して高額の賞金が授与されるのもThinkQuestの大きな特徴である。各部門の受賞チームの生徒一人一人に対して、それぞれ第1位に15,000ドル(約180万円)、第2位に12,000ドル(約144万円)、第3位に9,000ドル(約108万円)、第4位に6,000ドル(約72万円)、第5位に3,000ドル(約36万円)が授与され、最優秀賞受賞チームの生徒一人一人には25,000ドル(約300万円)が授与されることになっている(特別賞についても賞金が設定されている)。これらの賞金は、奨学金として位置づけられ、受賞した生徒達が高等教育(大学など)を受けるに当たって必要となる授業料などに充てられる。賞金はキャッシュとして生徒の手に渡ることはなく、生徒が受け取った大学からの授業料請求をThinkQuestの主催団体が生徒に代わって支払うという形態をとっている。なお、生徒以外に、コーチおよび学校に対しても別途賞金が授与される。

 ThinkQuestという教育プログラムにおいて「コンテスト」は一つの側面である。そして、もう一つの側面は「教材ライブラリー」であると言える。コンテストに提出された作品は、教材としての基準を満たしているかどうかチェックされ、基準を満たしているものはインターネット上の教材ライブラリーに加えられる。96年度、97年度が終わった段階では、部門別、アルファベット文字別にリスティングされた状態だったが、98年度以降は、このようなリスティング(ディレクトリー)以外に、データベース機能を付加し、キーワード検索、国別検索、使用言語別検索ができるようになっている。現在、ライブラリーには1,500以上のWeb作品が蓄積されており、1日平均300万ヒットの利用がある人気教育サイトとなっている。

 これら様々な特徴を考えると、ThinkQuestは単なるWebコンテストの域を越えた教育プログラムであることがわかる。それは、来るべき21世紀に必要とされる人材の育成プログラムであり、また、インターネットを教育的に豊かなものにしていこうとするプログラムであると言える。


3.ThinkQuestの始まりとこれまでの経緯

 ThinkQuestを企画・運営する Advanced Network & Services, Inc.(以下、「Advanced Network」。http://www.advanced.org/)は、コンピュータネットワークのテクノロジーおよびアプリケーションの利用促進によって教育を向上させていくことを目的に1990年9月に設立された非営利組織である。 同社は、IBM、MCI、Merit、Northern Telecomとの協力により全米で最大かつ最高速度のネットワークを構築し、1990年から1995年にかけてNSFnetバックボーンサービス(米連邦政府のプロジェクト)を提供していた。その後、同プロジェクトの終了を受け、1995年2月、ネットワーク資産のすべてをアメリカオンライン社に売却。その売却益をもとに教育および科学を支援する幾つかの新しいプログラムを開始した。そのうちの一つがThinkQuestである。なお、Advanced NetworkのCEO兼社長であるAllan Weis氏は、IBMのVicePresidentだった人間である。

 Advanced Networkは、1995年の終わり、96年度プログラムとして「ThinkQuest '96」を開始した。対象は米国内の中学生・高校生であり、パイロットプロジェクトという位置づけであった。その後、同プログラムは97年度より国際化する。「ThinkQuest'97」には、38か国から3,602人の生徒が参加。翌年の「ThinkQuest '98」には、64か国から5,852人の生徒が参加した。この年、日本における推進体制も整い、日本からも32チーム79人が参加した。(実は、その前年「ThinkQuest '97」に対して、日本から1人参加したという記録が残っているが、残念ながら作品提出には至らなかった。)

 「ThinkQuest '99」は、1998年10月より募集を開始し、1999年4月5日に申込を締め切った。今回は、80か国から7,572人が申込をし、総参加者数ベースで29%増という結果であった。日本からは、29チーム65人が申し込んでいる。「ThinkQuest '99」の作品提出締切は1999年8月15日。受賞チームの発表は11月に米国ロサンゼルスで開かれる授賞式にて行われる予定である。


4.ThinkQuestのルール

 ThinkQuestのコンテストへの参加規定はルール(ThinkQuest Rules)としてまとめられている。参加者は、このルールを読んでそれを順守するのはもちろんであるが、ThinkQuestでは、参加者の保護者もこのルールを読み「保護者の許可書」を提出する必要がある。これは、参加する生徒と保護者がThinkQuestのルールを理解し、それを守るということを証明するものである。

 ルールには次の項目が含まれている。
「応募資格」「参加方法」「作品の提出」「提出締切」「作品の審査」「賞金」「審査員」「審査基準」「授賞に関する一般規則」「教育リソース宝石賞」「授賞イベント(授賞式)」「著作権のある素材の利用」「参加申込書類と応募作品の内容について」「奨学金授与の条件」「米国以外でナショナルパートナーがいない国から参加する生徒の保護者の許可について」「失格について」「チームメンバーの変更」「審査員の不適任判定」「知的財産の所有権、権利と義務」「Advanced Network の決定権」「準拠法の選択と紛争の解決」「ルールの変更」

4−1.審査基準について

 ルールには上記の通り「審査基準」が含まれているが、この審査基準は、別の見方をすれば、ThinkQuestが目指しているゴールを記述しているとも言える。ここでは、6つの審査基準についてその内容とそれぞれのポイントについて触れてみたい。


(1)各生徒の学校間における技術的多様性(10%)

昨年までは「チームのコラボレーション」の一要素という扱いであったが、本年より独立した項目となった。参加者が属する学校のコンピュータ及びネットワーク設備がどのレベルにあるかを「STaRチャート」という一つの物差しで図り、チームメンバーが通う学校間の格差が大きければ評価が高くなるという構造を審査基準に埋め込んでいるものである。これによって、環境が整備されている学校の生徒と整備されていない学校の生徒がチームを組むことを促進し、一方が他方を補いながら共同作業を行うというスタイルを推し進めようとしている。

なお、「STaRチャート」のSTaRとは「School Technology and Readiness(学校の技術環境および準備体制)」のことであり、米国のThe CEO Forum on Education and Technology(教育とテクノロジーに関するCEOフォーラム、http://ceoforum.org/)が策定しているものである。この団体は、米国のコンピュータ、通信、教育関係の企業のCEO(Chief Executive Officer:最高経営責任者)で構成されており、現在学校で教育を受けている生徒達が、21世紀に生きる市民としてまた労働者として必要となるテクノロジースキルを身につけているかどうかを国家レベルでモニターし、テクノロジーをいかにうまく教育に導入していくかについての理解を促進させることによって国家を前進させることを使命としている。

STaRチャートの指標は次のようになっており、それぞれ「LOW Tech」「MID Tech」「HIGH Tech」「TARGET Tech」にレベル分けされている。最終目標は「TARGET Tech」のレベルであり、すべての学校がそれぞれの指標においてこのレベルを目指すことになる。ThinkQuestではこの指標の一部を利用して、参加者が属する学校の情報通信設備の度合いを測っている。

STaRチャートの指標

(a) ハードウェア
  ・コンピュータ1台あたりの生徒数
  ・マルチメディアコンピュータ1台あたりの生徒数
  ・CD-ROM1台あたりの生徒数
  ・メンテナンス
(b) 接続性
  ・LAN
  ・インターネット接続
  ・接続速度
(c) 内容
  ・ドリル練習の利用
  ・創作するためのアプリケーションソフトの利用
  ・シミュレーションソフトの利用
  ・調査のための各種資料の利用
  ・ネットワークを利用したコミュニケーションの利用
(d) 専門家の養成
  ・トレーニング内容
  ・専門家養成の実践
  ・テクノロジーへのアクセス及び利用のパターン
(e) 導入と利用
  ・先生の役割
  ・生徒のテクノロジー利用パターン
  ・授業時間の長さ

(2)チームのコラボレーション(10%)

ThinkQuestでは、技能、リソース、背景が異なる生徒同士のコラボレーションを促進するため、審査においては以下の点に着目し、メンバー間の格差が大きければ大きいほど高い評価をするという仕組みになっている。

(a) 作品制作に当って、メンバー各自の知識、技能、努力、貢献が分担・共有され、相互協力がいかにうまくなされたか。

(b) 参加生徒の使用言語、国籍、性別、年齢が異なるといった、各チームのコラボレーションを左右するような要素。

コラボレーションの一つの側面は、メンバー一人一人が持つ優位性をどれだけうまく成果に反映させるかという「作業分担」という側面である。オールマイティという人はなかなかいない。ある生徒は非常にデザインのセンスがあり、ある生徒はインターネットの技術に非常に長けており、またある生徒はチームが選択したトピックについて精通している。このような3人が一つのチームを組み、うまい形で作業分担ができれば、すばらしい作品ができる可能性がある。

コラボレーションのもう一つの側面は、作業開始以前には大きな格差として存在していた知識、技術、情報などのギャップが、共同作業の結果どんどん埋められていくという「知識共有あるいは知識移転」という側面である。もちろんデザインのセンスやプログラミングのノウハウなどなかなか容易に移転できないものもあるが、自分にはできないことを軽々とやってのける人が目の前にいるということだけでも大きな学習になるのではないかと思う。

上記2つは、コラボレーションの効能と言えるが、その一方で、様々な背景を持った生徒同士が一つのチームを組んで共同作業をすることの難しさ、また、メンバーが時間的・空間的に離れた場所にいる場合インターネットを駆使して共同作業をすることの難しさ、といったことも考慮に入れる必要がある。

なお、ここで一つ注意が必要なのは、これらの格差、そして、それを埋めるコラボレーションは、提出された作品そのものを見ても判断ができないという点である。実は、ThinkQuestでは、作品提出時に「Web作品」とは別に「作品提出フォーム」という書類を提出することになっている。チームはこのフォームの中に、チーム構成のこと、様々な格差にも関わらずコラボレーションが有効に図られたこと等々を記述して提出することになる。このコンテストは、Webページの単なる出来映えを評価するだけではなく、そのプロセスをも評価しようとしているわけである。ここにまた一つ教育プログラムとしての価値が見いだせる。

(3)作品の教育的価値(25%)

チームが教育的価値の高い作品を制作することを促進するために設定された審査項目である。教材を作るコンテストであるため、この項目に高い比重がおかれていることは言うまでもない。

ここでもまたチームは「作品提出フォーム」の中で、自分達自身が考える「自らの作品の教育的価値」について記述する必要がある。チームは、常に他の生徒に利用されることを意識しながら(もう少し大げさに言うならば、世界の教育に貢献することを意識しながら)作品を制作し、また、審査員は、チーム自身が掲げた「作品の教育的価値」が正しい設定であるかどうか、あるいは、重要なものであるかどうかの判断をするとともに、作品がその価値をどれだけ実現しているかを評価することになる。

なお、この項目では、利用者が実際に参加しながら学ぶことができる仕組みになっているかどうかということも一つの評価ポイントとなっている。ThinkQuestでは、コンテストへの参加そのものが「インターネットスタイルの学習」を促進する形になっているが、チームが作る作品がさらに「インターネットスタイルの学習」を促進するものになっているかどうかを審査されることになる。

(4)作品の品質(25%)

提出作品は、他の多くの人に使われる、ということが前提となるため、その品質に対する配点も高いものとなっている。具体的には次の2つのポイントが評価されることになる。

(a) 作品の技術面から見た品質。信頼性、使いやすさ、一貫性、強靱性など。サブミットされたデータの内容をチェックできる機能を備えていること。その作品を利用する生徒や学校が増えても問題なく効率的に動くこと。

(b) 作品の内容面から見た品質。情報の正確さや完全性(公式、定理、文章、図など)。アイディアの表現が明確であり、表現力に富んでいること。他人の作品の帰属が適切に示されていること。

一つめは、コンピュータソフトウェアとしての品質の問題であり、二つめは、コンテンツ(内容=情報)の品質の問題であると言える。

(5)作品が今後充実していく可能性(20%)

ThinkQuestではまた、その作品が自己組織的に発展していく仕組みを持ち合わせているかどうかも審査するようになっている。ThinkQuestで制作される作品を「教材」という言葉でくくってしまうことにはやや危険が伴うが、ThinkQuestが目指している「教材」は、アクセスしたユーザーが内容を読むだけではなく「参加」できるものであり、その過程を通じて、制作者・参加者間でデータ・アイディア・経験を共有することができ、そして、その結果として「教材(Web作品)」そのものが豊かなものになっていくことを良しと考えているのである。

(6)作品の利用度(10%)

チームの最終到達点は「作品の完成」ではなく「作品が教材として利用されること」である。どんなに完璧な教材を作ったとしても、利用されなければ意味はない。ここでは、作品提出締切日までの利用頻度が評価されるとともに、今後の利用可能性が審査のポイントとなる。

ThinkQuestでは、作品完成後、時間に余裕のあるチームは、自らの作品のマーケティングを行うということは、前の節で書いた。ThinkQuestの作品制作の一連の流れは、一般社会における「製品作り」のプロセスに通じるものであり、ここで得られた経験は、実社会においても必ず役に立つものである。作られた製品は最終的には多くの人に使ってもらわなければ意味はない。これがこの項目の審査のポイントである。

4−2.著作権のある素材の利用について

「著作権」についての正しい理解は、これからのデジタル社会において必須であり、十分な教育が必要である。ThinkQuestでも、この点についてはルールで定め、基本的には次の場合のみ、他者が作成した著作権のある素材を利用できるとしている。

(a) 1918年1月1日以前に作成されたものであり、かつ、引用情報が作品に正しく記載されている。

(b) 1918年1月1日以降に作成されたものであるが、その著作物(知的財産)の作成者または所有者より、作品内でその素材を引用、複製、または使用することに対して、書面で許可を得ており、かつ、この書面による許可が Advanced Network にも提出されている。

チームが(b)に該当する素材を利用する場合には、実際に著作権者に連絡をとり、「書面による許可」をもらわなければいけない。生徒達はこのようなプロセスを経て、著作権が持つ意味を理解していくことになる。

なお、ThinkQuestのファイナリストの作品は、事前に弁護士のチェックが入り、著作権の侵害がないかどうか確認作業が行われることになっている。


5.ThinkQuestの今後

5−1.国際化

表1」を見ると、ThinkQuestが年々国際化していく様子がわかる。国際化の最初の年度であるThinkQuest '97では米国以外からの参加者の割合が23.1%であった。これに対して、本年度のThinkQuest '99ではその割合が49.0%となっている。このままいけば来年度は、50%を確実に越えるであろう。インターネットがすでに国際的なインフラになっていることを考えるならば、この伸び率は決して速いものとは言えない。先に説明したプログラムのコンセプトを考慮に入れるならば、国際化は必須であり非常に重要であると言える。なお「表1」は、国別に参加者数をはじき出した統計であるが、ThinkQuestはオリンピックと違って国対国の競争ではなく、国際的な混成チームをいかにつくるかが評価ポイントの一つになっているということに注意して欲しい。

ThinkQuestにはナショナルパートナーという存在がある。ナショナルパートナーとは、それぞれの国でThinkQuestを促進することを目的としてAdvanced Networkとアグリーメントを結んだ組織である。1999年4月現在、ナショナルパートナーが存在する国は、世界で40か国にのぼる。日本におけるナショナルパートナーは、日本インターネット協会である。シンガポールのように国(教育省)がナショナルパートナーになっているところもある。Advanced Networkには、パートナーシップディレクター(以前は国際ディレクターと呼ばれていた)と呼ばれる担当者がおり、各国でのナショナルパートナー作りをサポートしている。また、年2回、ナショナルパートナーミーティングを開催し、プログラムを国際的に進めていくための議論がなされている。

5−2.ThinkQuest JuniorとThinkQuest for Tomorrow's Teachers

12〜19才を対象に始まったThinkQuestは、その対象年齢を上下に拡大しようとしている。ThinkQuest Juniorは、小学校4〜6年生を対象としたプログラムである。最高6人までのチームを構成し、教材Webページ作りに挑戦する。期間は毎年10月から翌年3月までの半年間。98年度および99年度プログラムは米国のみを対象としており、2000年度プログラムから国際化する計画になっている。なお、対象が小学生ということもあり、すべての国の生徒が英語の作品を制作することは困難であるとの考えから、ThinkQuest Junior 2000は、各国ローカル言語による各国毎のコンテストになる予定である。

もう一つの広がりは、ThinkQuest for Tomorrow's Teachers(以下、「TQTT」)である。こちらは、4〜7人の大人が一つのチームを構成するのであるが、構成するメンバーは、次の資格をもった人々でなければならない。(1)教職資格を目指している大学生または大学院生、(2)3年以上の教職経験のある大学教員、(3)3年以上の教職経験のある小中高校教員、(4)テクノロジー指導者。チームは、小中高校向けの教材または教員教育用の教材の制作でそれぞれの成果を競うことになる。TQTTは、本年度(99年度)が第1回目であり、本年度は米国のみを対象としている。2000年度から国際化する予定である。

なお、ThinkQuest JuniorとThinkQuest for Tomorrow's Teachersが新たに加わったことにより、従来からある12〜19才向けのThinkQuestは、ThinkQuest InternetChallengeという名称に変更された。


6.日本におけるThinkQuestの活動

日本では、ThinkQuest '98に対して日本から多くの生徒を送り出すということを第1の目的として、参加のための支援・促進活動が始まった。1997年12月のことである。実はこれをさかのぼる1年半前の1996年7月にThinkQuestは村井純慶応大学教授によって日本インターネット協会に対して紹介されていた。村井教授は、Advanced NetworkのAl Weis氏より呼ばれ、ThinkQuestの国際展開の提案を受けたとのことであった。このような経緯もあり、日本におけるナショナルパートナーは日本インターネット協会となり、また、同協会会長の石田晴久東京大学教授(当時)を委員長として「ThinkQuest日本プログラム推進委員会」が発足した。

ThinkQuest '98の申込締切日は、1998年2月末。これに向けて参加説明会を含むワークショップや講演会を開催したり、電子メールでの参加案内を教育関係者に送るなどして、生徒の参加を呼びかけた。その結果、日本からは32チーム79人が参加をした。8月末の作品提出締切を受けて、その後審査が行われたが、10月に発表されたセミファイナリストには、日本からの参加者を含むチームが6チーム含まれていた(セミファイナリストは全部で238チーム)。また、引き続き発表されたファイナリストには、幸運にも日本からの参加者を含むチームが2チーム選ばれた(ファイナリストは全部で34チーム)。彼らは、11月に米国ロサンゼルスにて開かれた授賞イベントに招待され、そこで行われた最終審査の結果、名古屋市立城山中学校の世古繁喜君のチームは、社会科学部門において第3位およびコラボレーション賞を授賞し、合計14,000ドル(約170万円)の奨学金を受け取った(生徒一人につき)。 また、セントメアリー・インターナショナルスクールのJames Matthews君のチームはSpecialRecognitionとして評価を受けるという結果になった。

上記ThinkQuest '98の募集活動の過程で、事務局は幾つかの課題に遭遇した。「日本の中学生・高校生にとって最初から英語でWebページを作るというのは困難である。」「先生達の正しい理解を得なければ普及は難しい。」「コンテストの結果いくら英語の教材が増えたとしても日本の教育でそれを使うことはできないだろう。」などなどである。事務局では、これらの課題を検討した結果、日本語によるThinkQuestの開催を企画する。「ThinkQuest@JAPAN '98」の誕生である。企画当初は、ThinkQuestの「国内予選」的な位置づけを考えていたが、途中から米国のThinkQuestとは独立したものにすることになった。ただし、ThinkQuestのコンセプトはできる限り踏襲するということが基本である。名称の使用も含めてAdvanced Networkからの了承も得られた。また、ThinkQuest@JAPANには独自の趣向も加えられた。一つは、学校の先生も参加者として参加できるよう「大学生・社会人の部」を設けたこと。これには、大人も含めて日本語ベースの教材を増やしていきたいという意図も込められていた。もう一つは、ThinkQuest@JAPANを「日本の国内コンテスト」にするのではなく「日本語による国際コンテスト」にするという意向である。日本国外にも日本人はたくさんおり、また、日本語を学習している人もたくさんいるはずであり、彼らを巻き込むことによって、日本語による国際コラボレーションの可能性もあると考えたわけである。

ThinkQuest@JAPAN '98は、1998年7月に正式に募集を開始。中学生・高校生の部は、103チーム268人、大学生・社会人の部は、16チーム 39人の参加申込があった。1999年2月16日に作品提出を締めきり、オンラインによる第1次審査および最終審査が行われた。その結果、中学生・高校生の部においては、15チームがファイナリスト各賞に、大学生・社会人の部においては4チームがファイナリスト各賞に選ばれ、すべての受賞チームが3月29日に東京で開催された授賞式に招待された。この中には、米国サンフランシスコから参加したチームも含まれており、企画当初に意図した「日本語による国際コンテスト」が奇しくも初年度より実現できたということになる。

中学生・高校生の部の最優秀賞は、慶應義塾湘南藤沢高等部2年生3人のチーム(山田育矢君、塩澤藍子さん、山口真由子さん)が宇宙論についてまとめた「THECOSMOLOGY -EXPLORE THE LARGEST MYSTERY-」に決定した(http://contest.thinkquest.gr.jp/tqj1998/10073/)。以下にこの3人の受賞後のコメントを紹介したい。彼らのコメントにもThinkQuestが目指しているコンセプトが良く現れている。

「このページを作る上で最も大変だった事は、末永く使用できる教材を制作することでした。最もうれしかった事は構築したシステムがユーザーによって使われている事です。」(山田君)

「自分たちの作ったページが実際に読まれ、また専門家の方から指摘を頂いていますが、教材として活用され始めているようで少なからず感激しています。」(塩澤さん)

「技術面についてはほとんど何も知らない状態からの出発でした。また、内容面についても、テーマとして選んだものの内容が難解なものであっため作成期間の大半は勉強に費やされました。無我夢中でやってきた結果としてこのような大きな賞を頂けて、このチームでの受賞を誇りに思います。」(山口さん)

ThinkQuest日本プログラム推進委員会および事務局は、今後も、「ThinkQuest への日本からの参加促進・支援」と「ThinkQuest@JAPAN の運営」を2つの柱として日本におけるThinkQuestの推進を行っていくことになる。


7.おわりに

インターネットの起源は、1969年に米国防総省の予算で始められたARPANETである。このARPANETは、1990年にその役割を終えるが、それと交差する形で1986年にインターネットのバックボーンとして登場したのがNSFnetである。当初56Kbpsで始められたこのバックボーンは後に1.5Mbpsとなり、1991年には45Mbpsにアップグレードされた。このアップグレードの作業を担い、かつ、その後のNSFnetの管理をプロジェクトが終了する1995年まで行ったのが、Advanced Networkである。当時NSFnetに接続されていた米国の地域ネットワークは、次々と商用インターネット(いわゆるプロバイダー)へと発展していった。そういう意味では、NSFnetは、今日のインターネットのまさに揺籃であったと言っても過言ではない。Advanced Networkは、NSFnetの資産を売却した後、いくつかあるプロジェクトの一つとしてThinkQuestを開始した。インフラとしてのインターネットを築いてきた彼らが次に着手したのは、次世代の人材育成であった。

実はインターネットは、ここ数年かけて「米国のインターネット」から「世界のインターネット」へと組織的な移行作業を行っている。インターネットの原型を作り、大きくしてきたのは、米国連邦政府によるところが大きい。インターネットを管理する様々な機関も長い間米国政府機関の予算によって賄われてきた。これを今、世界の総意に基づく非営利機関に徐々に移行する作業が進行している。ThinkQuestもまさに同様の道をたどっている。「米国のThinkQuest」から「世界のThinkQuest」への道である。米国で始まったインターネットが日本の社会に大きな影響を与えたのと同じく、ThinkQuestもまた日本の教育に大きな影響を与えるということを確信している。